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特集

山島新田河道掘削でICT土工

 

国土交通省は、生産性の向上および魅力ある建設現場の実現を目的に、i-Construction(アイ・コンストラクション)に取り組んでいる。その中で、北陸地方整備局信濃川下流河川事務所では、新潟県加茂市山島新田地先の「山島新田地区河道掘削工事」の5工区において、i-Constructionの一つで、3次元データを活用して起工測量から設計、施工、出来形管理、納品を行うICT土工を推進しており、ICTを活用したモデル工事として注目を集めている。

現場全体の最適化へ

 

北陸地方整備局信濃川下流河川事務所管内の加茂川合流点下流部から五十嵐川合流点までの約17キロの区間では、平成23年7月新潟・福島豪雨の出水で計画高水位を超過し、河川はん濫による浸水被害の恐れが生じる危険な状態となったことから、12年度より河道掘削を推進。現在実施している加茂市山島新田地区においては、川に堆積した土砂を掘削し、洪水時の水位を低減させ洪水の安全な流下を図るとともに、水際の湿地環境の再生により自然を再生を目指している。掘削土砂は田んぼなどで必要とされる整備事業などに利用する。
 山島新田地区河道掘削工事のうち、その1工事は15年度に完了。現在、その2工事からその6工事の5工区、延長1・02キロで工事が本格化している。この5工区は、北陸地方整備局が16年度発注した工事で初となるICT活用工事。そのうち、同局のICT活用工事発注者指定型の初弾工として発注したその2工事(掘削土量5万8600立方メートル)は福田組、その6工事(同4万5800立方メートル)は加賀田組が受注。ICT活用工事受注者希望2型で発注したその3工事(同2万1800立方メートル)は新潟藤田組、その4工事(同2万3000立方メートル)は丸運建設、その5工事(同2万立方メートル)は坂詰組がそれぞれ受注した。9月から3次元起工測量(その2-5工事はレーザースキャナー〈LS〉測量、その6工事はUAV測量)に着手。その後、3次元設計データを作成し、現在、ICT建機による施工(その2-4工事がマシンガイダンス〈MG〉、その5、6工事がマシンコントロール〈MC〉)が進められている。3次元出来形測量を段階的に行いながら、3次元データの納品までは、各工区ともに3月の完了を見込んでいる。
 ICT土工を一連の工区で進めている現場は珍しく、同事務所では、この中で各業者のさまざまな取組みで浮かんできた課題を精査し、改善を加え、今後の建設現場における生産性を向上、現場全体の最適化に役立てていく。

先進事例を発信、共有

 

全工区でICT土工が展開されている山島新田地区河道掘削工事の現場では、最新技術を活用した先進事例を広く情報発信し、知識や技術などの共有の場となっている。
 北陸ICT戦略研究会は、地方自治体職員や土木関連企業らを対象に現場見学会を開催。福田組で採用している技術を紹介した後、トップライズがLS(レーザースキャナー)測量について、福井コンピュータが3次元設計データ作成について、現場での課題などを報告した。工事現場ではレンタルのニッケンがバックホウMG(マシンガイダンス)に関して解説した。
 新潟県建設業協会は、若手技術者を対象とした現場見学・技術力向上研修会を実施。参加者は起工測量から設計、施工、検査まで3次元データを活用するICT土工の説明を受けるとともに、バスで移動しながら全工区の工事現場を見学し、現場代理人との質疑応答を行った。
 また、同協会新潟支部は、女性部会の交流会で、女性が活躍できる魅力ある建設業に向けた取組みの一環として、「愛(I)CT情報館」を訪れ、最新技術について理解を深めた。

北陸初、愛(I)CT情報館設置

 

山島新田地区河道掘削工事現場の対岸(加茂市鵜森地先)には、北陸地方整備局信濃川下流河川事務所三条出張所と山島新田工事連絡会議(福田組、新潟藤田組、丸運建設、坂詰組、加賀田組)が共同で企画した、北陸管内で初となるICT活用工事の情報館が設置されている。
 施設名は「山島新田地区河道掘削工事 愛(I)CT情報館」。地域および受注者、発注者の思いを込め、ICTの『I』に『愛』をかぶせた。施設は2階建て延べ約60平方メートル。地域住民や来館者がくつろげる場として、入口にはウッドデッキが設けられた。新技術の情報発信基地であるとともに、建設業の役割や自然・環境保全の大切さ、安全・安心な地域づくりを子どもにも分かりやすく伝える工夫が施されている。
 1階は、i-Construction(アイ・コンストラクション)やICT技術のメリット、山島新田地区河道掘削工事の事業内容などを説明するパネル展示のほか、建設重機の模型を利用しICT技術を紹介。時間は平日の午前9時から午後4時まで(見学は事前予約)。また、2階には、加茂川漁業協同組合の協力により信濃川に生息する魚が見れる「やましん水槽館」と、同工事全工区の現場を一望できる展望台を配置した。時間は平日の午後4時30分まで。
 見学申込みは、山島新田工事連絡会議(電話0256-64-8903)、信濃川下流河川事務所(電話025-266-7133)まで。

建設業界一体で前進/北陸地方整備局信濃川下流事務所長/井上清敬氏

 

国土交通省では、2016年を「生産性革命元年」、2017年を「生産性革命前進の年」と位置づけ、全ての建設生産プロセスでのICTの活用等、「i-Construction」を推進し、2025年度までに建設現場の生産性の2割向上を目指しています。1人あたりの生産性を向上させれば、人口減少下でも、経済成長が可能です。防災・減災、インフラの整備・管理により、社会経済活動を支える建設業界の生産性向上は、まさに経済成長に直結することであり、将来の日本にとって重要と考えます。
 当事務所では、治水安全度を段階的に高めるための治水事業として、整備計画目標流量の洪水を安全に流すことを目的に、大規模に信濃川の河道掘削工事等を実施しています。現在は、山島新田地区の5工事で「ICT土工」を実施しています。各施工業者は、意識が非常に高く、連携してICT情報館を設置し、積極的なICT土工・治水事業の重要性のPRはもちろん、地元自治会と一体となった開所式の開催、地域住民が普段から活用しやすいような工夫等に取り組まれています。また、当事務所発注の河道掘削工事では、水中掘削の効率性も踏まえ、従来からICT建設機械を使用する施工業者もあり、その経験を活かし、現在、ICT土工の効率化のノウハウの蓄積に各社がしのぎを削っているように感じます。
 一方、ICT土工は本格化したばかりで、抽出された各種課題は適宜改善される過程にあると思います。全国的な動きとしては、i-Construction推進コンソーシアムが立ち上がり、様々な分野の産学官が連携して、IoT・人工知能(AI)等の最新技術の現場導入や3次元データの利活用等、技術開発・社会実装が促進されると考えられます。
 ICT土工への挑戦等は、新技術導入・初期投資等の負担を伴うとは思います。しかし、人口減少問題は、今の日本が抱える各産業分野の共通の大きな課題であり、その克服に向けた挑戦が、当該産業分野の持続的発展に繋がると思います。各主体の挑戦的取組により、建設業界が一体となって、将来に向けて前進していくことを期待します。

ICT活用工事の標準化にむけて/山島新田工事連絡会議会長/田村誠氏

 

山島新田河道掘削工事において、現在発注されている5工事全てがICTを活用した「ICT土工」に取り組んでいる。このICT土工は、従来の情報化施工に3次元起工測量と3次元出来形管理及び納品を加えることにより、一連で管理を行い、建設現場のプロセス全体の最適化を図ることを目的としている。今回初めての取組みであり、工事内容や現場条件等によりいろいろと課題があると思われるが、今後いろいろな工事においてこのICT活用が標準化され、その効果による生産性の向上や建設業のイメージの改善、担い手の確保が実現すべく、発注者と施工者が一体となり最適化に向け改善していけるよう、問題提議していく必要があると考える。